【中小企業の銀行対策】メインバンクを他行に変更する際の注意点とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、メインバンクを他行に変更する際の注意点について考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 少なからぬ中小企業経営者がメインバンクに不満を持っている
2 メインバンクを他行に変更することは大きなリスクを伴う
どうぞ、ご一読下さい。
1 少なからぬ中小企業経営者がメインバンクに不満を持っている
弊所(北出経営事務所)では、中小企業の銀行対策のコンサル業務を行っていますが、非上場の中小企業の場合、事実上、資金調達を金融機関に依存せざるを得ないため、中小企業と金融機関の橋渡し役という役割を果たすべく、日々仕事に取り組んでいます。
非上場の中小企業である以上、金融機関、中でも、メインバンクとの関係が良好であることは極めて重要なことです。
ところが、北出の肌感覚なのですが、少なからぬ中小企業経営者が、メインバンクの現状について不安や不満を持っているように感じています。
金融機関である以上、カチカチの組織であるため、中小企業経営者、中でもオーナー社長からすると、「もっと、柔軟に対応できへんのんか?」と不信感を持っているケースがあります。
また、金融機関といっても、結局は、外回りの渉外担当者との人対人とのお付き合いであるため、それぞれの相性の問題があって、「あいつは生意気なヤツや」としっくりいっていないこともあります。
なので、時折、オーナー社長から「どこか、ええ銀行、紹介してくれへんか?」とお声がけいただくこともあるのです。
とはいえ、ほとんどの中小企業経営者は、少々の不平不満がありながらも、従来からのメインバンクとの関係を継続します。
ほとんどの場合、メインバンクのお付き合いは、創業当初に遡るため、歴代の担当者の中には、資金面での窮地を救ってもらったり、ビジネスマッチングでいいお客様を紹介してもらったりした成功体験が少なからずあるわけですし、現状のメインバンクに担保を預けてあったり、信用保証協会の保証付の融資が相当額出ていたりするので、現在の担当者と少々ソリが合わなくても、メインバンクを変えるという経営判断には至らないケースがほとんどです。
仮に、現在のメインバンクの担当者とソリが合わないとしても、長くて4年程度で転勤等で次の担当者に変わっていくので、「4年間我慢するしかないか」というところに落ち着くというわけです。
2 メインバンクを他行に変更することは大きなリスクを伴う
ところで、金融機関側にもいろいろ事情があります。
特に、大阪のような都市部では、金融機関が業態を越えて、凄まじいばかりの融資先の開拓競争をしています。
帝国データバンクや東京商工リサーチの評点を参考に、優良先の中小企業には、新規融資を目指して、エリア内の金融機関の渉外係、営業担当者が訪問を繰り返します。
中には支店長を同伴してきて、「既存のご融資を全て当行で肩代わりさせて頂きます。金利も勉強させてもらいます」と、中小企業経営者には心動く魅力的な提案をしてきます。
当然、新規先の開拓ですから、信用格付が求める金利よりも低いレートを提示してくることは不思議ではありません。
一般の事業会社であっても、新規先に対しては、同業他社よりも良い条件を提示して出し抜くことは普通にあることです。
とはいえ、既往の取引金融機関よりも金利が安いからといって、他行に全て肩代わりしてもらって、メインバンクを変更してしまうのはリスクが伴います。
そもそも、既存のメインバンクとのお付き合いは長年にわたります。
目先の金利が安いだけで、本当に今後長いお付き合いで、信頼関係を構築していけるかどうか、なんの保証もありません。
たまたま、肩代わりを提案してきた金融機関の部店長(支店長等)がイケイケの人であっただけで、次の部店長が本部の与信所管部署畑の人で、石橋を叩いて渡るようなシブチンの人が異動してきたら、「ここは新規先やけれども、まだまだ取引が浅いから慎重に行こうや」とブレーキを踏んでくるとも限りません。
また、全額肩代わりとなれば、信用保証協会も「なんで既存の銀行さんではダメなんですか?」と至極当たり前の疑問を持つことは間違いありません。
いざ、肩代わりの実行となれば、新たなメインバンクで新規融資を実行してもらって、即、今までのメインバンクに電信送金して、その日のうちに完済してもらうことが必須です。
肩代わりの実行時に今までのメインバンクが態度を硬化させて、即日完済に難色を示すようなことになれば、肩代わりの条件違反となって、えらいことになってしまいます。
不動産担保を預けていれば、根抵当権の変更登記を付ける必要があるので、登記費用が発生します。
全部肩代わりなので、「お客様からの入金も当行に変えて貰わえますよね」と、肩代わりする金融機関担当者は流動性預金の平残を上げたい一心で、当たり前に要求してきます。
これが厄介なことで、いつもの月次請求書に「お振込先の変更のお願いについて」という文書を添えて、入金先を変えてもらおうとすると、お客様の中には「おお、この会社、銀行と揉めたな。ひょっとすると、この会社、長くないかもしれん。大丈夫かいな。ちょっと取引は控えておいた方がいいかもしれんな」と要らぬ信用不安が広がらない保証は何もありません。
もちろん、自社ブランドの自社製品の開発に成功して、アジアの新興国に輸出を目指していくような前向きなお話があれば、地銀や信金・信組よりも、外為に強いメガバンクに取引の比重を高めていくようなことは全くも問題はありません。
このように、メインバンクをごっそり変えて、他行に既往の借入金を肩代わりをしてもらうには、好条件にて借り換えるメリットはあるものの、リスクもしっかりと存在します。
中小企業経営者は、よほどの事情がない限り、目先の好き嫌いで、メインバンクを変更するのは慎重でなければならないのです。