【中小企業の銀行対策】BSに計上されてしまっている貸付金への適切な対処法とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、貸借対照表(BS)に計上されてしまっている貸付金への適切な対処法について考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 貸付金は使途不明金と見做される
2 貸付金の評価によって追加融資の可否が決まる
どうぞ、ご一読下さい。
1 貸付金は使途不明金と見做される
北出は、中小企業の銀行対策の経営コンサルタントをしているので、今まで数知れないほどの中小企業・小規模事業者の決算書や試算表に接してきました。
そして、少なからぬ中小企業・小規模事業者において、決算書や試算表の貸借対照表(BS)の「資産の部」に「貸付金」が計上されています。
貸付金でも、短期貸付金として流動資産に計上されているケースもあれば、長期貸付金として固定資産の投資の部に載っているケースもあります。
通常、中小企業・小規模事業者で、かつ、オーナー経営(社長一族が全株式、もしくは発行済み株式の大半を保有していること)であれば、そのほとんどは貸付金は社長、もしくはその一族向けに貸付られたものです。
もちろん、例えば、先代の息子が社長に就任し、先代が生前のうちに株式の譲渡を受け、内部留保が手厚い優良企業であれば株価も高くなるため、株式の買取資金として会社から先代の息子で現社長に貸し付けられているようなケースはありえます。
しかしながら、ほとんどの場合、貸付金は「使途不明金」の性格が極めて強いものであることが一般的です。
貸付金の中身は、勘定科目明細上では、社長向けになっていて、かつ、貸付金の金額は過去数期に渡って減少しておらず、未収利息相当分が営業外収益としてPLに計上されています。
決算書と勘定科目明細を見ると、少なくとも外形的には、役員報酬以外に会社のおカネがオーナー一族に流出しているように見えてしまいます。
これでは、会社と個人の分別ができておらず、経営者保証ガイドラインに基づいた経営者保証を外そうとする際にも、大きな支障になってしまいます。
オーナー経営といえども、会社と個人は全く別主体であることは否定できないので、貸付金の存在は公私混同と見做されても仕方がないのです。
2 貸付金の評価によって追加融資の可否が決まる
次に、貸付金に対する金融機関の目線について考えてみます。
融資の審査を行う金融機関からすると、この「使途不明金」としての性格の強い貸付金は極めて厄介な存在です。
特に、仮に運転資金として金融機関がニューマネーを出した直後の決算時に、貸付金の金額が増加しているようなケースは最悪です。
せっかく、金融機関としては、会社の運転資金としてニューマネーを出したのにもかかわらず、その一部が社長個人に転貸されて、社外に資金が流出しているとなれば、金融機関は黙っているわけにはいきません。
さらに、自己査定においてBSを査定する際、融資先の会社にとって貸付金の回収見込みが立たず、事実上不良債権化していると金融機関によって見做されてしまって、かつ、貸付金の金額が簿価株主資本合計額を上回っていれば、実質債務超過とされてしまいかねません。
実質債務超過とされてしまうと、金融機関の取組スタンスは徹底・回収となってしまって、追加融資を受けることが極めて難しくなります。
貸付金をどのように金融機関に評価してもらうかによって、追加の融資の可否が決まってくると言っても過言ではないのです。
では、ひとたび、BSの資産の部に貸付金が計上されてしまった場合、中小企業経営者はどのように対処すべきでしょうか?
会社が貸付金が回収不能、社長が会社に返済する意思がなければ、貸倒損失として計上する手もありますが、その場合、貸倒損失が税法上の損失として計上しにくいことに加えて、社長個人が債務免除を受けたと見做されると、社長個人に課税されてしまうリスクがあるので、安易に、貸倒損失として計上するわけにはいきません。
また、全額一気に社長個人が会社に返済するというのも現実的ではないケースがほとんどです。
このため、毎月、一定金額をきっちりと社長が会社に返済することを金融機関に約束をして、試算表上でも返済相当額を貸付金の貸方に計上することで、貸付金の一定額を査定の対象から外してもらうように金融機関に働きかけることが現実的です。
仮に、月額100千円を毎月社長が会社に返済していくことで、期末時点で年間1,200千円貸付金を圧縮したことにするのがマッチベターといえます。
このように、一旦、使途不明金としての性格が強い社長向け貸付金が資産の部に計上されてしまうと、後々厄介なことになります。
中小企業経営者は、改めて、会社と個人をしっかりと分別して、会社の経費で落とせる支出と、役員報酬で賄うべき個人の支出を明確に分けることを日々徹底する必要があるのです。