【中小企業の銀行対策】中小企業が債権放棄を受けられない根本的な理由とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、中小企業が債権放棄を受けられない根本的な理由について考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 安易な債権放棄はモラルハザードを産む
2 債権放棄には経済合理性が最優先する
どうぞ、ご一読下さい。
1 安易な債権放棄はモラルハザードを産む
今朝の日経朝刊が「ユニチカ、取引行が債権放棄へ」と大見出しの記事を1面で報じました。
ユニチカといえば、大阪を代表する「繊維」の老舗にして、大手、そして名門企業です。
そんなユニチカの祖業である繊維事業が中国勢を始めとした新興国に追いつかれ、追い抜かれ、赤字体質に陥っていました。
そして、名門ユニチカは成長性の見込まれる産業用フィルム事業に特化することで収益を抜本的に改善する代わりに、メインバンク3行が300億とも400億とも言われる債権放棄に応じることとなったようです。
このように大手企業への債権放棄の報道がなされる度に、中小企業経営者は、(うちも債権放棄してくれへんかなあ)とついつい考えてしまいがちです。
なぜ、ユニチカなど大手企業が取引金融機関から債権放棄(会社から見れば債務免除)してもらえるのか、中小企業が債権放棄をしてもらえないのか、その根本的な理由を以下で考えてみます。
そもそも、借入金は、「借金(シャッキン)」です。
借りたカネは返すというのが当たり前の商いの鉄則です。
借りたカネは返すという子供でもわかるような理屈は基本的に曲げることができません。
初めから寝てしまうつもりで、借りられるだけ借りてしまって、あとは債権放棄を受けられるようになってしまえば、モラルハザードが横行してしまって、真面目に返済をしている大多数の会社経営者がバカを見るようなことがあっては絶対になりません。
借りたカネは返すことが当然でなければ、金融機関もまともに融資を出せなくなってしまいます。
これが債権放棄が難しい第一義的な要因なのです。
2 債権放棄には経済合理性が最優先する
次に、ユニチカのような大手企業の場合、万が一にも破産手続きとなってしまった場合、多数の雇用が失われるばかりではなく、仕入先や外注先に多額の不良債権が発生して、連鎖倒産を誘発しないとも限りません。
先だっての船井電機の破産手続きは社会に少なからぬ影響を与えました。
さらには、メイン行が債権放棄するのと共に、債務者側が抜本的な経営改善を図って収益を改善することによって、メイン行始め、取引金融機関各行が将来に渡って、破産手続きよりもより多くの債権を回収できるのであれば、取引金融機関側としては、債権放棄に応じやすくなる可能性が高まります。
加えて、担保や保証等で保全されない実質信用部分(保全面で「裸」のところ)に既に引当が積まれていれば、債権放棄をしても金融機関側に追加の損失は出なくて済みます。
さらにいえば、特に、安易に金融機関が債権放棄に応じられない理由の一つが、金融機関の現経営陣の責任が追及されることです。
より具体的に申し上げるならば、金融機関が債権放棄に応じるのに当たって、金融機関が上場していて不特定多数の一般株主がいる場合には、一部の株主から「債権放棄に応じるのではなく、徹底的に債権回収すべきである。債権回収できた分を配当として株主に還元すべき」と主張されてしまうと、金融機関の現経営陣が株主代表訴訟で提訴されてしまうことさえ起こり得るのです。
いかに、金融機関経営者と言っても、個人で数億円の損害賠償請求を受けるリスクがあれば、易々と債権放棄を決議することは難しいのです。
確かに、中小企業経営者の立場からすれば、「大手ばっかり借金負けてもらえて、ずるいやないか」という心情になりがちです。
とはいえ、金融機関の債権放棄には上記の通り、多様で、かつ高いハードルが待ち構えているのです。
中小企業経営者としては、(うちも債権放棄してもらいたい)と思えるような過剰債務に陥ることなく、必要な資金をタイムリーに調達できるような金融機関との信頼関係構築に努める必要があるのです。