【中小企業の銀行対策】低預貸率の金融機関に注意が必要な理由とは?
1 長期金利の上昇が低預貸率の金融機関の体力を削ぐ
長らく続いてきたマイナス金利の事実上の解除から少し時間が経ちました。
一気に0.5%程度にまで上昇した長期金利は、それ以上の上昇を見せず、今のところ、落ち着きを取り戻しているように見えます。
住宅ローン金利の上昇も新規の固定のみで、変動金利には影響が出ていません。
中小企業が最も影響を受けるメガバンクや地方銀行の短期プライムレートも上昇の気配がありません。
任期満了が近づく黒田日銀総裁も、量的緩和維持を表明しています。
世間で、「大したことなかったな」という雰囲気で、毎日新たに報道される国内外のニュースの下に「長期金利上昇」は埋もれていっているようです。
他方、異次元の量的緩和、ゼロ or マイナス金利は異常事態であることに変わりはなく、いずれ、「金利のつく世の中」に戻っていくことが予想されます。
このような長期金利の上昇は、金融機関にどのような影響を与えるのでしょうか。
メガバンクのようなオーバーローン(集めた預金よりも貸出金が上回ること、預貸率が100%に近いこと)の金融機関は、余剰資金が少なく、むしろ資金が足りないため、預金だけではなく短期金融市場から資金調達しているので、長期金利の上昇の影響は限定的です。
その一方で、預貸率が低い地域金融機関(例えば、預金1兆円、貸出金5,000億円の場合、預貸率は50%)の場合、融資で運用できない余剰資金を札束で金庫に置いておくわけにはいかない(現金で保有している運用益は0円となる)ので、無理矢理にでも債券投資を中心とした資金運用を行っています。
小規模な地域金融機関には資金運用のノウハウの蓄積が不十分であるため、リスクの高い資金運用に手を出してしまう可能性が出てきます。
長期金利の上昇は、保有している債券に含み損が発生します(例えば額面100円の債券を102円で買って現在の時価が95円に下がってしまうケースのこと)。
債券の投資目的が満期保有であれば、即、時価評価して含み損分を減損する必要はありませんが、金融機関としての財務体質が劣化することに変わりはありません。
運用している債券に含み損が内包した金融機関は、一定の自己資本比率(国内基準4.0%以上)を維持するために、総資産を圧縮します。
金融機関の総資産の圧縮は、貸出金の抑制に直結するので、保全のない信用扱いの融資は控えておけ、要管理先以下の貸金は一刻も早く回収せよ、となって、貸し渋りが再来しかねません。
長期金利の上昇幅が大きくなると、個々の金融機関の信用不安が出てこないとも限らないのです。
2 メインバンクの資産状況を、まずは確認する
次に金融機関から融資を受けている中小企業経営者の目線に話を切り替えます。
ついつい、中小企業からすると、金融機関の組織は大きく見えますが、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合といった金融機関の業態別でもその規模は千差万別です。
横浜銀行や福岡銀行といった巨大な地方銀行もあれば、預金量が1兆円程度の小規模な銀行もあります。
信用金庫でも、京都中央信金と地方の弱小信金と比較すると、大人と子供位の規模の差が歴然と存在します。
中小企業経営者とすると、まずは自社のメインバンクがどのような規模感なのか、自己資本比率はいかほどか、不良債権はどの程度抱えているのかを知ることから始めます。
金融機関の主要な経営指標はディスクロージャー誌上で確認することができます。
支店などの営業店の客たまりには、紙媒体のディスクロージャー誌が置いてあります。
金融機関の公式ホームページでもディスクロージャー誌を閲覧することができます。
次に、金融機関の貸借対照表から預金(負債勘定)と貸出金(資産勘定)の割合(預貸率)を見てみます。
地域金融機関の預貸率は、高いところで100%近く、低いところでは50%を割り込んでいることもあります。
次に貸出金以外の国債、外国国債、社債等の債券(資産勘定)がどのくらい投資されているのかを確認します。
メインバンクが預貸率が低く、債券の投資が過大である場合、これまでと同様の融資スタンスを維持してもらえるか、疑う必要が出てきます。
メインバンクの変更は簡単にできませんし、安易に変更すべきではありませんが、ここぞという時に無理を聞いてもらうためには、メインバンク自体にしっかりとした経営体力が備わっている必要があります。
「長年、メインバンクとして支えてきてくれたのに・・・」、「既存の手貸の書き換え時にこれまでにはなかった内入れを要求された」といった具合に、中小企業経営者は、「こんなはずやなかったのに」と後悔することのないよう、メインバンクの状況を把握しておく必要があるのです。