【中小企業経営者の心得】意外と分かっていない減価償却費の本質とは?
今日は、中小企業経営者の心得として、意外と分かっていない減価償却費の本質について考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 減価償却費はキャッシュが棄損しない唯一の費用である
2 償却不足は禍根を残す
どうぞ、ご一読下さい。
1 減価償却費はキャッシュが棄損しない唯一の費用である
中小企業経営者であれば、毎月会計事務所から上がってくる試算表を見て、「先月は儲かった」とか、「1月は休業日が多くて不調やった」とか、一喜一憂するものです。
試算表や決算書の損益計算書では、基本的にキャッシュが出ていってしまうものを費用計上します。
ところが、唯一、キャッシュが出ていかない費用が、「減価償却費」です。
減価償却費は、売上原価にも、販管費にも登場します。
工場で稼働している生産設備の減価償却費相当分は売上原価に計上しますし、営業マンが使用する業務用車は販管費に費用計上します。
ところが、この減価償却費というのは、ともすれば分かりにくいもので、減価償却費とは「これこれこういうものや」と明確に説明できる経営者は意外と少ないのではないかと考えています。
では、減価償却費の概念を分かりやすくするため、非常に簡単なモデルで減価償却費を説明します。
仮に、5期前の期初に500万円の営業車を現金で購入したと仮定して、減価償却費を計上せずに、現進行年度の期末に0円で売却したとしましょう。
5期前の期初の仕訳は、(借方)車両運搬具500万円/(貸方)現金500万円となります。
現進行年度の最後には、(借方)固定資産売却損500万円/(貸方)車両運搬具500万円となります。
取得してから5年間経過した現進行年度末にいきなり500万円の固定資産売却損という特別損失(もしくは営業外費用)が計上されてしまいます。
ところが、営業車は営業マンが日々運転をして、おそらく相当程度の距離を走行しているため、日々営業車の価値は毀損していきます。
そのため、減価償却費を定額で年額100万円計上(分かりやすくするため、定率ではなく定額で計算します)すると、
5期前から現進行年度までの仕訳は、(借方)減価償却費100万円/(貸方)車両運搬具100万円となります。
減価償却費を計上することで、車両運搬具の価値の減損相当額を毎期費用計上することができます。
この間、減価償却費を計上しても、キャッシュは流出しません。
キャッシュが流出しない費用は、唯一、減価償却費のみで、もっと言えば、減価償却費は、金融機関からの借入金の元本返済原資になります。
このように、減価償却費は、税務当局がキャッシュが流出しないけれど、土地を除いた固定資産の価値の減損相当額を費用計上することを認めてくれている貴重な費用なのです。

2 償却不足は禍根を残す
中小企業の試算表、決算書を見ていて、時折、見受けられるのが、「償却不足」です。
おそらく、減価償却費をフル計上すると赤字になってしまうので、減価償却費の計上を少なくするか、あるいは、未計上としているようなのですが、これは、ナンセンスの一言に尽きます。
そもそも、取引金融機関からすれば、簡易的に元本返済能力を見るのにあたって、簡易CF(=「経常利益」ー「法人税等」+「減価償却費」を重視します。
上記でも申し上げていますが、減価償却費は、金融機関からの借入金の返済原資になるものです。
特に、土地を除く固定資産購入にかかる設備資金に関しては、減価償却費が返済原資そのものです。
減価償却費の計上を少なくする、あるいは計上を見送るというのは、金融機関からすれば、「返済する意思あらへんのと違うか」という誤ったメッセージを送ることにもなりかねません。
さらに、実態ベースのBSを引き直した場合には、減価償却費の計上不足分は、実質純資産を押し下げます。
下手をすると、減価償却費計上不足によって、実態ベースで実質債務超過に転落することも起こり得るのです。
このように、減価償却費というのは、金融機関目線からすれば極めて重要な費用です。
将来の禍根を残さないためにも毎期、毎期、減価償却費を法定通り、フル計上することが当たり前のルールなのです。