【中小企業の銀行対策】中小企業と金融機関との間で齟齬が生じやすい根本的な原因とは?
今日は、古くて新しい中小企業の課題ですが、中小企業の銀行対策として、中小企業と金融機関との間で齟齬が生じやすい根本的な原因について考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 債権者と債務者との立場の決定的に違う
2 中小企業と金融機関との差は「情報の非対称性」に伴うものである
どうぞ、ご一読下さい。
1 債権者と債務者との立場の決定的に違う
非上場中小企業にとっては、金融機関は資金調達の要です。
特に、会社が成長期を迎えている場合、増加運転資金は必要ですし、成長を加速させる設備投資に伴う設備資金も金融機関から調達するのが本筋です。
このため、本来、中小企業と金融機関は、対等なビジネスパートナーであるはずなのですが、世間では、中小企業と金融機関との間で、「言った、言わない」のトラブル発生は珍しくありません。
「言った、言わない」とトラブル発生の原因としては、特に、融資実行時には、金融機関で稟議が承認され、いざ、実行前という段階で、銀行取引約定書、金銭消費貸借契約書などなど、多くの債権書類に押印をし、実印を捺すなどのセレモニーがつきものです。
このセレモニーの債権書類が多岐に渡ることが多く、金融機関担当者があらかじめ鉛筆書きで丸をつけた部分に、次々に、ハンコをついて、実印を押印します。
もちろん、コンプライアンス全盛のこのご時世ですから、金融機関担当者としても、一件一件の債権書類の意味するところを説明しますが、実際、いざ、ハンコをついて自署を重ねていると、「社長、次はこちらへ社判を、そちらに自署と実印を」とやっていると、もはや自署している経営者自身がどの書類がどのような意味をなしているのか、訳がわからないうちに、実行前のセレモーが終了してしまうことが珍しくないのです。
さらには、金融機関は債権者、融資を受ける側の中小企業は債務者という関係性がもたらす力関係の問題です。
預金の平残よりも借入金の金額が少ない「実質無借金」経営であれば、トラブルが発生したら、極論すれば、中小企業経営者側が「そんなことばっかり言うんやったら、預金と相殺して、全額返済させてもらいますわ。個人の定期も全て解約して、他行に送金させてもらいます」と中小企業経営者が啖呵を切ることができますが、普通の中小企業であれば、預金の平残よりも借入金の残高が方が多いケースがほとんどなので、中小企業経営者が金融機関にキレてはいけないと言うのが現実なのです。
このように、債権者である金融機関と、債務者である中小企業との立場は決定的な差があるのです。
2 中小企業と金融機関との差は「情報の非対称性」に伴うものである
中小企業と金融機関との差について、さらに、掘り下げてみます。
金融機関の場合、営業店(支店等)だけではなく、本部機能が存在して、営業店では対応しきれない場合、専門部署が事案に対応することになります。
例えば、債務者区分が正常先ではない融資の審査には、営業店を経由して審査部や融資部が審査に当たりますし、トラブルが拡大して法的な対応が必要な場合に備えて法務部門が対応しますし、反社会的勢力が疑われる場合には総務部渉外担当が事案に対処します。
ヒト、モノ、カネ(プラス情報)のいずれに関しても、金融機関は中小企業を圧倒します。
また、融資先の決算書に疑問点がある場合には、営業店の担当者や融資役席が中小企業経営者から疑問点についてヒアリングします。
債務者である中小企業経営者には、そのようなヒアリングに対して、事実上拒否権はありません。
一方、中小企業経営者が自社の信用格付や債務者区分について「うちの会社て、ホンマに正常先にしてくれてるん?」と金融機関担当者に質問を投げ掛けても、金融機関担当者はその質問に直接答えることはできません。
融資先の中小企業に関してだけでも、圧倒的に情報量について、金融機関の方が優っていると言わざるを得ません。
本来、市場経済において、情報の対称性が確保されることが公正な競争の条件となりますが、中小企業と金融機関との間には、厳然とした情報の非対称性が存在しています。
こうした情報の非対称性が、中小企業と金融機関との齟齬が生じる究極的で、根本的な原因になっていることを中小企業経営者は認識する必要があります。
では、金融機関から融資を受ける中小企業経営者として、このような情報の非対称性に対して、対処すべき方策はあるのでしょうか?
手っ取り早い解決策としては、金融機関の自己査定等、金融機関の実務を可能な限り学び、情報武装することが必要です。
場合によっては、弊所のような専門家の助言を得ることも検討しても良いかもしれません。
中小企業経営者は、ヒト、モノ、カネ(プラス情報)で圧倒的に勝る金融機関と対等に御していくためにも、金融機関に関する情報武装を怠ってはいけないのです。