【中小企業経営者の心得】貸倒損失が会社に与える深刻なダメージとは?
今日は、中小企業経営者の心得として、貸倒損失が会社に与える深刻なダメージについて考えます。
今日の論点は、以下の2点。
1 キャッシュオンでない限り貸倒損失のリスクは常にある
2 貸倒損失が連鎖倒産を生む
どうぞ、ご一読下さい。
1 キャッシュオンでない限り貸倒損失のリスクは常にある
報道によれば、ここのところ、倒産が増勢傾向にあるように見受けられます。
企業間物価の上昇によって、原材料単価や水道光熱費等諸経費も軒並み高くなっています。
人手不足によって、現場が回らず、倒産に追い込まれるケースもあるようです。
確かに、弊所のお客様でも、製造業や建設業といった原価が高い業種では、売上総利益率の低下傾向が見られます。
そんな中小企業を巡る厳しい外部環境下では、平時よりも、お客様が経営破綻して、売掛金や受取手形が貸し倒れてしまうリスクは高まる一方です。
小売業のようなキャッシュオンの業種ならいざ知らず、製造業、建設業、卸売業等は「掛け」の商いです。
よく言えば、お客様を信用する「信用取引」が我が国の商慣習となっていて、諸外国のような即金の商いは日本には馴染みません。
このため、例えば、信用調査会社のレポートやワンシートの簡易データを頻繁に活用していたとしても、貸倒リスクからは逃れられないのが日本の「掛け」の商いです。
また、新規取引では前受金で着金を確認して初めて、納品するような社内ルールはかなり一般的です。
営業担当者が、意識的に、お客様のネガティブな動向(例えば、長年勤めていた経理担当者や番頭格が突然辞めてしまうようなケース)を確認するのは当たり前ですが、取引が長くなってきて、相手方との信頼関係ができてくると、「即金でお願いします」とはなかなか言い出せないのが現実です。
中小企業でも、起こり得る貸倒損失に備えて、売掛金の一定額を貸倒引当金としてBSにマイナス計上するケースも見られますが、どちらかというと全体的には少数派のようです。
中小企業経営者は、「掛け」の商いである以上、貸倒リスクからは免れないことを再認識する必要がありそうです。
2 貸倒損失が連鎖倒産を生む
貸倒損失が発生すると、会社はどのようなダメージを受けてしまうのか、具体的に考えています。
一番わかりやすいダメージが売掛金が不良化してしまうことです。
もっと言ってしまうと、当てにしていた入金がなくなってしまうことです。
どこの会社でも、売掛金の入金を見込んで、資金繰りを想定します。
資金繰り表を作成する際にも、A社の支払条件は、当月末締め、翌月末日支払いとなっていれば、経験則的に、「A社は月末が土日にかかる場合には、土日の前の金曜日に入金されるはず」という具合に、売掛金の回収を見込みます。
ところが、そのA社が仮に破産手続きに移行してしまうと、11月29日に入金されるはずであった10月度売上分が入金されなくなります。
ところが、貸倒損失が会社に与えるダメージはそれだけにとどまりません。
多くの業種、業態で、同業他社との競合が厳しい中、新規顧客の開拓は容易なことではありません。
せっかくここまで取引をしてきたA社という顧客を会社は失ってしまうことになります。
加えて、倒産の兆候を見極めて商品をA社の倉庫から回収することができたとしても、売上総利益分が会社の正味の損失となります。
相手方が破産手続きに移行する場合は、当たり前ですが、相手方は破産手続き移行が社内外にバレないよう、ごく一部の経営幹部のみが代理人弁護士先生と破産手続きを秘密裏に進めるので、事前に破産手続きへの移行を察知するのは、なかなか難しいというのが現実です。
いざ、代理人弁護士先生が債権者に破産手続き移行を通知する段階では、在庫など会社の資産は破産配当の原資となるので、在庫などは封印した倉庫に厳重に保管をし、社員でさえ倉庫内に立ち入ることは許されません。
ほとんどの破産手続きでは、商品や製品を回収するのは現実的に難しいので、商品・製品も失ってしまいます。
ほとんどの破産手続きでは、一般債権者への配当順位は最劣後であるため、破産配当はあったとしても雀の涙程度です。
このように、貸倒損失は会社に重大なダメージを与えてしまうのです。
さらに、従前から資金繰り余力が小さい会社で、貸倒損失の金額が大きく、資金調達も難しい場合には、連鎖倒産を誘発してしまう恐れさえあるのです。
中小企業経営者は、貸倒損失が会社にもたらすダメージが深刻であることを再認識して、自社で実践できる可能な限りの与信リスク管理を怠ってはならないのです。