【中小企業経営者の心得】インフレ下で値下げ競争を仕掛ける不合理性とは?
今日は、中小企業経営者の心得として、インフレ下で値下げ競争を仕掛ける不合理性について考えます。
今日の論点は、以下の2点。
1 いい加減にデフレマインドから脱却しよう
2 付加価値を高めて顧客満足度を上げる経営努力を
どうぞ、ご一読下さい。
1 いい加減にデフレマインドから脱却しよう
コロナ禍が明けて、一気に進んだのが物価高です。
消費者物価だけではなく、企業間物価も明らかに上昇局面に転じ、上昇トレンドはまだまだ続く予感です。
日本銀行渾身のマイナス金利解除にもかかわらず、ドル高円安の流れに歯止めがかかりません。
企業間物価の上昇要因はドル高円安だけではありませんが、原材料の多くを輸入に頼っている業界は数多く、企業間物価高はそう簡単には収まりそうにもありません。
コロナ禍以降のインフレ、マイナス金利解除の世の中にあって、弊所のお客様の中小企業を見ていてとても気になるのが、お客様の中小企業のライバル企業のいくつかが、製品や商品の価格を引き下げる動きが見られることです。
価格を引き下げてお客様を呼ぶという営業施策は、典型的なデフレマインドに起因するものです。
北出に言わせれば、(今更、値下げなんて、何考えとんねん?)と強烈にツッコミを入れたくなるのですが、インフレ下に突入した現在、値下げ競争をする非合理的であるのは明確です。
では、インフレ下で値下げ競争が有益であるのはどのようなケースが考えられるでしょうか?
その答えは、おそらく一つだけなのですが、インフレ下で値下げ競争が有益である例としては、寡占市場(市場参加者の数が少なく、市場プレーヤーの数社が高い市場を占めている市場のことを言う、日本で言えば、ビールメーカーがその典型例。大手のA社が業界4位のS社の売れ筋商品のセグメントにターゲットを絞った低価格新商品を投入してS社に打撃を与えるようなケース)において、高い市場シェアを握っていて、製品や商品の価格を下げることで、数少ないライバル会社からシェアを奪い取って、ライバル会社に打撃を与えることができるようなケースに限られます。
他方、飲食業にせよ、建設業にせよ、製造業にせよ、ごくニッチなセグメントを除けば、寡占市場を構成するような市場参加者はほとんどいません。
ましてや、中小企業、小規模事業者レベルで、高い市場シェアを握って、値下げによってライバル会社に打撃を与えられるような会社は、ほとんど皆無の世界です。
ミクロ経済学の囚人のジレンマの通り、売上を拡大するため、値下げをしようという経営者の気持ちもわからないでもありませんが、このご時世に中小企業が値下げ競争に突入してしまうと、1年後に起こる現象は、増収赤字決算、資金繰り余力低下となるのが見えています。
中小企業経営者が長らくの間、経験していなかったインフレ下で売上を拡大するのは容易なことではありませんが、上記で申した通り、不毛な値下げは自社の首を絞めるだけなので、不毛な値下げは行わず、デフレマインドから脱却しなければならないのです。
2 付加価値を高めて顧客満足度を上げる経営努力を
値下げ競争が抱える問題として、更に挙げられるのが、賃上げ原資を創出することができないことです。
原材料高で、人手不足が深刻な中、優秀な人材を確保するのは容易なことではありません。
何より、新規採用がままならないばかりではなく、既存の重要な人的戦力が同業のコンペティターに流出してしまうことが懸念されます。
インフレ下で、薄利多売を実現するためには、余程の高い市場シェアが必須です。
安売り競争に巻き込まれることなく、優秀な人材を確保するために、必要なことは、お客様への付加価値を高めて、高くても買って頂けるような営業戦略を確立するしか方法はありません。
お客様の満足度を上げるためには、従業員にこの会社で働くことへの安心感を持ってもらうことが必須です。
製造業であれば、基本的なことですが、不適合品は出さない、納期は守る、もっと言えば、長時間労働を強いることなく、競合他社よりも納期を詰めるために必要な施策をどんどん実践していく必要があります。
省力化を実現するために必要な設備投資は前倒しでどんどん行っていく必要があります。
製造業であろうが、サービス業であろうが、省力化への設備投資の可否が、生産性向上への大きな鍵となることは間違いありません。
省力化投資は、少額投資に止まらないことが想定されます。
タイムリーに必要な設備投資を行うためにも、中小企業経営者は、メインバンクとのコミュニケーションを日常的に取っておくことが必要です。
中小企業経営者は、日々のルーティンに追われることなく、同業他社との競合に立ち遅れることなく、インフレ下だからこそ、攻めの経営を実践していく必要があるのです。