【中小企業の銀行対策】「一行取引」のメリットとデメリットとは?
今日は、中小企業の銀行対策として、「一行取引」のメリットとデメリットについて考えてみます。
今日の論点は以下の2点。
1 中小企業であっても一行取引は少数派である
2 一行取引であっても政府系金融機関は使い倒す
どうぞご一読下さい。
1 中小企業であっても一行取引は少数派である
これまでの北出の経験値で申し上げますと、中小企業であっても、一行取引は少数派であるということです。
よほどの小規模事業者でない限り、年商1億以上の事業規模の中小企業であれば、取引金融機関が一行のみというのはむしろ稀な感じです。
もちろん、一行取引の中小企業の例がないわけではなく、一行取引の背景として挙げられるのが、創業当初からずっと取引があって、一時的に業況が厳しい局面にあっても、しっかり支えてくれたという具合に、言うなれば「恩義を感じている」というのが一行取引の背景です。
では、一行取引は中小企業経営者にとって、どのようなメリットがあって、いかなるデメリットがあるのかを考えてみます。
中小企業にとっての一行取引のメリットとしては、余程のことがない限り、支援してくれるはずだという一種の安心感です。
これは金融機関側としても同じことがあって、他行との競合に晒されないというメリットがある一方、仮に経営改善局面に陥ってもしっかりと支援を継続しなければならないという暗黙の了解があるということです。
他方、中小企業にとってのデメリットとしては、一行取引であるが故に、他行との競合がないため、適用される金利はどうしても高めになりがちです。
金融機関側にしても、経営改善局面に陥っても必要最小限の与信費用(貸倒引当金)を積みながらも追加のニューマネーの実行やリスケジュールに応じることも想定しておかねばなりません。
とはいえ、中小企業の場合でも一行取引ではなく、メイン行、サブ行等複数行取引を選択するケースが多いのは、メイン行だけではなく、いざという時にはサブ行以下にも頑張ってもらえるかもしれないという期待があるからだと想像されます。
他方、長年一行取引であったのに、同じ規模感の他行がいきなり新規でニューマネーを放り込んできたら、一行取引であったメイン行担当者のメンツは丸潰れで、「社長、それはないですわ。その資金ならうちでちゃんと対応させて頂いたのに。なんで、事前に相談してくれなかったんですか!」と怒り心頭となってしまいます。
営業店に帰店した担当者は、他行に新規融資を持っていかれたことを役席に報告したら、間違いなく、「お前、社長と何の話しとったんや、このボケ」とボロカスにコケにされることは避けられそうにありません。
話はそれましたが、一行取引はメリットもあればデメリットもあって、一概に一行取引をよしとも悪しとも言い難いのです。
2 一行取引であっても政府系金融機関は使い倒す
一行取引の場合でも、預金等を受入れない政府系金融機関は「一行」の中には該当しないというのが一般的です。
特に、多くの中小企業にとって縁が深い日本政策金融公庫の国民生活事業は話は別です。
なんと言っても、長期、固定かつ低レートという破格の条件は民間金融機関では早々引き出せるものではありません。
そもそも民間金融機関と公庫のような政府系金融機関は役割が違います。
実際、仮に一行取引であっても、「この資金は公庫さんでお願いしたいのですが」と事前に一行取引の担当者に告げておけば角が立つことはありません。
多くの一行取引の中小企業経営者が、一行取引の金融機関に恩義を感じている節があるため、「政府系にお願いしたらずっとお世話になってきたメインさんに顔向けできない」ともしかすると感じているかもしれませんが、その懸念は基本的に杞憂です。
長期、固定かつ低レートという破格の借入条件を提示してくれる日本政策金融公庫は中小企業にとってはありがたい存在なので、中小企業経営者は公庫を使い倒せば良いのです。
もしかすると、年商1億内外の中小企業や小規模事業者であれば、経理の管理負担を考慮すると、一行取引のメイン行とガッツリと握った上で、日本生活金融公庫から補完的に資金調達するというのがむしろ理想的なのかもしれません。
このように、中小企業にとって一行取引はメリットもあればデメリットもあります。
中小企業経営者は、一行取引であろうが複数行取引であろうが、メイン行をしっかりと位置付けて、メイン行とのしっかりとした信頼関係構築に努める必要があるのです。