【中小企業の銀行対策】「債権者平等の原則」をねじ曲げてはいけない理由とは?

今日は、中小企業の銀行対策、中でも、リスケジュール状態下での「債権者平等の原則をねじ曲げてはいけない理由について考えます。

今日の論点は以下の2点。

1 「少額だから返してしまいたい」は一発アウト
2 「債権者平等の原則」の例外はリスケジュール後のニューマネーに対する優先弁済に限る

どうぞご一読下さい。

1 「少額だから返してしまいたい」は一発アウト

最近、「ゼロゼロ融資の返済が始まって倒産が増えている」というお手軽は報道がまかり通っていることは、北出としては非常に残念に感じています。
元本返済据置期間を3年間とした当初のコロナ資金実行時の金融機関の新型コロナウイルス感染拡大への認識の甘さはあるにせよ、民間金融機関の返済期間10年のコロナ資金を、3年据置として7年間で非常時の資金を返済するという発想がそもそも問題先送りの匂いがプンプンしていて、もしかすると、担当者ベースでは「3年後には俺、転勤していないから3年後のことは知ったこっちゃない」という金融機関の営業店の雰囲気が垣間見れる気がしてなりません。

実際は、現在もコロナ特例リスケに替わる都道府県の中小企業活性化協議会の支援の下、「収益力改善計画」の制度がちゃんと運用されていて、「返済がしんどい」というのであれば、「収益力改善計画」の中で、増収とコストカットへの具体策を明確化した上で、いったん、1年間元本返済を止めるという制度が運用されています。
「返済が大変だ」というところだけを切り取って、それが元で倒産が増えているという報道は、コロナ禍で頑張るサービス業中小企業を支援している北出としては、どうも片手落ちのように感じられて仕方がありません。

ところで、いざ、元本返済を止めるとなった時に、しばしば中小企業経営者の口から発せられるのが「X銀行が煩くて困るし、借入の金額は少しだからX銀行だけさっさと全部返済してしまいたい」という声です。
確かに、気持ちとしてはわからないでもないですし、債権者の金融機関側からしても、残高ベースで5位とか6位の下位行は保全もほとんどないため、経営者の感覚からすると下位行が煩わしく感じてしまうことも然もありなんという感じです。
またリスケジュールのような経営改善局面では、保全の度合いも各行差があるので、下位行からは「そりゃ、メインさんは保全があるからよろしいですね」と嫌味の一つでも言いたくもなります。

ところが、このような経営改善局面で債権者の調整で重要となるのが「債権者平等の原則」です。
「債権者平等の原則」とは、元本返済を止めるのであれば、全ての債権者が返済を止める(回収をストップする)ことで、文字面の通り、曲げられない重要な「原則」です。
また、元本返済を再開する際にも、原則として、元本返済月額可能額を残高シェアで各債権者で分け合います。
残高シェアで返済額を決定することを「プロラタ返済」と言います。
例えば、借入金が500百万円で、内、メインA行250百万円、サブB行100百万円、C行80百万円、D行70百万円であった場合、残高シェアはA行50.0%、 B行20.0%、C行16.0%、D行14.0%で、月額返済額500千円で返済を再開する場合、A行250千円、B行100千円、C行80千円、D行70千円となります。
これがプロラタ返済の一例です。
債権者平等の原則がねじ曲げられてしまうと、各金融機関の協調体勢は崩壊してしまって、下手をすると経営破綻に繋がりかねません。
それほどに、債権者平等の原則は重要なプリンシパルなのです。

実務的には、アクションプランを実行に移してFCF(フリーキャッシュフロー)を増加させることによって、月額返済可能額を増加させていって、リファイナンスを目指すというのが、リスケジュール後の経営改善の実務です。

2 「債権者平等の原則」の例外はリスケジュール後のニューマネーに対する優先弁済に限る

「債権者平等の原則」についてクドクド言いましたが、「債権者平等の原則」には例外があります。

その例外が、リスケジュール後にニューマネーが実行された場合です。
世の中、リスケジュール(借入返済の条件変更を行うこと)を行った後、ニューマネーを調達することで収益力を大きく改善させ、後々のより多くの借入金の返済が可能になると認められる場合、リスケジュール後にニューマネーを金融機関が追加融資することがあります。
リスケジュール後のニューマネーは、リスケジュール対象の既往借入金とは別に、優先的に返済をすることを前提としています。
このため、既往借入金はリスケジュールしていても、リスケジュール後のニューマネーは既往借入金とは別に返済を進めます。
これを「優先弁済」と言います。
リスケジュール後のニューマネーの調達は通常はなかなかハードルが高いのですが、ニューマネーがリストラの原資となるようなケースがそれに当たります。

現在、言われているコロナ資金に替わる伴走型資金による借換では抜本的な経営改善は簡単ではありませんし、不用意にゾンビ企業を延命させることにもなりかねません。
金融機関側から「収益力改善計画」へ移行するように助言されることはまずありません。
しかしながら、抜本的な経営改善を実現するために、収益力改善計画のような手立てや制度が用意されています。
中小企業経営者は、「コロナ資金の返済で大変だ」と凹むのではなく、創業当初に抱いていた「絶対に儲けてやる」という創業スピリッツを改めて思い出して、せっかくのご自身の会社を次世代に残せるように創造していただくことを強く望みます。

【中小企業の銀行対策】コロナ前の成功体験が昔話になってしまった理由とは?も併せてご一読下さい。

資金繰りや銀行取引に不安を感じている経営者の皆様へもご覧下さい。

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