【中小企業の銀行対策】経営改善局面の中小企業が「正常先」への道筋を示す必要性が高まっている理由とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、経営改善局面の中小企業が「正常先」への道筋を示す必要性が高まっている理由について考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 金融機関の収益アップが不良債権処理を加速させる
2 経営課題の先送りは許されない
どうぞ、ご一読下さい。
1 金融機関の収益アップが不良債権処理を加速させる
昨年秋以降、短期金利が上昇に転じて、長らく続いてきたゼロ金利、マイナス金利は終わりを告げました。
メガバンクと地方銀行各行は、昨年秋から2度に渡って、トータルで短期プライムレートを0.400%引き上げました。
実際、短プラ上昇によって、金融機関は個別の融資先に支払利息が増加した返済予定表(償還明細表)が送付された他、政府系金融機関やコロナ資金等の制度融資を除けば、短プラ連動が中小企業向け融資の基本なので、試算表上の支払利息も目に見えて、「支払利息が増えたな」と経営者が実感することも珍しくなくなりました。
もちろん、「たかだか年率0.400%でしょ」とうそぶく経営者もいないとも限りませんが、短プラ連動0.400%アップとなれば、短プラ連動平残1億円で、年間の支払利息の増加額は400千円、平残5億円であれば、支払利息増加額は年間で実に2,000千円にも達します。
借入レートが上昇する一方、預金金利も上昇してはいますが、預金金利の上昇幅は、借入レートのアップに比べれば微々たるものにすぎません。
金融機関としては、調達原価の預金利息の増加よりも、貸出利息の増加が相当に大きいため、去年秋以来の金利上昇は、金融機関に大きな収益をもたらしました。
一方、金融機関としては、金利上昇によってもたらされた収益を、不良債権処理に振り向けていく方向性です。
特に、内容が良い金融機関ほど、収益アップを原資に引当(貸倒引当金)を積んでいく方針を明確化しています。
長年に渡って、続いてきたゼロ金利、マイナス金利の中では、不良債権処理に慎重な金融機関が多かったのですが、前期から、今期にかけて、金融機関の方針転換は明確です。
リスケジュールが常態化しているような融資先中小企業は、「少々の金利の上昇なんて大したことない。大丈夫、大丈夫」なんてタカを括っていると、気がついたら茹でガエルになっていたなんてことにもなりかねないのです。

2 経営課題の先送りは許されない
中小企業金融円滑化法施行からやがて16年。
経営改善局面の会社の中には、もう10年以上もの間、リスケジュール(返済条件緩和)を金融機関から対応してもらっている中小企業が少なくありません。
実際、返済条件を緩和してもらっているケースで、要償還債務の償還年数(何年で返せるのかという年数)が50年だとか、それ以上という中小企業もなきにしも非です。
50年後といったら、現経営者はおそらく生きていませんし、融資を受けているメインバンクも単独ではおそらく存在していないことが想定されます。
もはや、50年で返すと言われても、金融機関側も融資先である中小企業側も誰も見届ける人がいないということです。
尚、要償還債務の償還年数の目処は10年以内(民間金融機関が最長で運転資金を出せる返済期間)とされていて、仮に、借入残高が300百万円であれば、年間30百万円、月額2,500千円の返済に耐え得るようなキャッシュフローを創出することが必要となります。
要償還債務の償還年数を10年間程度にすることと、実態ベースのBSで実質債務超過ではないことが、債務者区分を「正常先」とすることが中小企業経営者の責務と言えるのです。
要償還債務の償還年数を10年程度、実体ベースで債務超過に陥らないようにするためには、持てる経営資源を本業に集中・回帰させる一方、経営者個人を含めた有休資産の売却等によって借入金の内入れを行うなど、抜本的な経営改善が避けて通れません。
金利のある世の中に戻ったことを期に、経営上の課題や問題を先送りすることなく、聖域を作らず、会社全体にメスを入れて、爆速で経営改善に取り組む必要があるのです。