【中小企業経営者の心得】貸倒損失が中小企業に与える3つのダメージとは?
今日は、中小企業経営者の心得として、貸倒損失が中小企業に与える3つのダメージについて考えます。
今日の論点は以下の2点。
1 売掛金の貸倒と在庫の喪失
2 強引な営業による二次的貸倒損失の発生リスク
どうぞご一読下さい。
1 売掛金の貸倒と在庫の喪失
我が国では、小売業を除いた製造業や卸売業では、「信用取引」が基本です。
先に商品や製品を得意先に納品して、締め日支払日に合わせて請求書を発行して得意先に送付、支払日に振込入金や集金訪問による小切手での売掛金と受取手形の回収、受取手形の期日に金融機関経由で取立て資金化する、というのが我が国の「信用取引」のおおまかな流れです。
平たくいうならば、納品してお金は後、というわけで、キャッシュオンが基本とされる諸外国とは一線を画す商取引の慣習です。
残念ながら、納品してお金は後、という過程の中で、回収期間が1ヶ月から手形の取立期日まで長ければ半年以上というケースもあるため、どうしてもその間で、得意先が倒産してしまったり、夜逃げになったりすると、売掛金や受取手形が不良債権化します。
かくして、善意を前提とする中小企業にとって、資金繰りの面で大きな打撃となる売掛金が貸倒となってしまいます。
これが、不良債権発生に伴う中小企業にとっての1つめのダメージです。
2つめのダメージが、在庫の喪失です。
営業担当者が回収までの責任を持つのが基本なので、いざ、得意先が倒産しそうだ、となれば、在庫を取り戻そうと、得意先に走ります。
倉庫に眠っていた自社が販売した在庫を運よく見つけて、引き取ることができれば、売上の赤伝だけで済みます。
ところが、近年では、資金繰りがつきそうにもないとなると、さっさと破産法を選択して破産手続きへ移行するケースが多いので、代理人弁護士が破産申立てを受任し、財産を保全してしまうと、在庫の回収はできません。
こうなると在庫の喪失という2つめのダメージが発生してしまいます。
貸倒損失は中小企業に大きな経営上のダメージを与えます。
貸倒損失はゼロにはできないものの、極力ゼロに近い水準にとどめる必要があります。
2 強引な営業による二次的貸倒損失の発生リスク
話が逸れますが、中小企業において、貸倒損失が発生する理由はどんなことでしょうか?
大企業であれば、会社毎に「与信管理規定」の類の内規が定めてあるのが普通です。
例えば、新規得意先候補が上場企業でIR情報やEDITNETで業績や株価の推移が確認でき、貸倒リスクの発生リスクが小さいと見做される場合は、初回取引から掛取引可。
非上場であれば、初回取引は先方からの着金確認後納品、掛取引移行時には東京商工リサーチや帝国データバンクの信用情報を入手、担当者が稟議書を起票、所属長が意見を陳述、審査部門に回付の上、稟議承認、稟議承認後に先方と取引基本約定書締結後に掛取引可、といった具合が一般的な与信管理規定です。
ところがほとんどの中小企業においては、与信に関する厳格な規定が存在しません。
契約は口頭でも成立するというのが定説ですが、取引基本約定書や個別取引契約書といった類の書面での取り交わしがほぼなされていません。
中小企業の場合、先方との取引の力関係が相対的に弱いため、締め日、支払日といった回収条件さえ曖昧であったりします。
これでは、貸倒損失が発生するリスクは高まるばかりです。
話を元に戻しますが、売掛金が貸倒となる場合の3つめのダメージが強引な営業による二次的貸倒損失です。
具体例にしますと、貸倒損失2百万円が発生し、その貸倒損失を取り戻すために新規取引開拓を経営者が営業部門に指示したとします。
業種が卸売業で売上総利益率20%と想定、新規取引開拓に伴って、追加的な販管費が発生しないと仮定すると、貸倒損失2 百万円を取り戻すために必要となる売上高は2百万円➗20%=10百万円となります。
2百万円の貸倒損失を取り戻すために必要な売上高が10百万円となれば、営業現場ではどうしても強引な営業手法を取りがちです。
与信に関する配慮は後回しとなって、シャカリキになって売上を取ろうとすると、新たな貸倒損失が発生するリスクが高まります。
これこそが強引な営業による二次的貸倒損失そのものです。
中小企業経営者は、貸倒リスクを極力にゼロに近づけるために、「御社の代わりは幾つでもある」と言われるようなことがないよう、「書面で仕事をする」文化を根付かせつつ、自社のビジネスモデルが他社とは一線を画す独自性を磨いて、競合する同業他社との差別化を図る必要があるのです。