【中小企業の銀行対策】多額の増資に踏み切った農林中金からみる健全金融機関の条件とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、多額の増資に踏み切った農林中央金庫からみる健全金融機関の条件について考えてみます。
今日の論点は、以下の2点。
1 自己資本比率だけで健全行か否かを判断してはいけない
2 低預貸率が金融機関を不安定にさせる
どうぞ、ご一読下さい。
1 自己資本比率だけで健全行か否かを判断してはいけない
金融機関の健全性を表す指標として、最も一般的な指標が自己資本比率です。
海外に拠点を有する国際基準は8%以上、国内基準は4%以上とされています。
バブル崩壊後の金融不安の際には、国際基準の8%、国内基準の4%を割り込むような危険性をはらんだ金融機関が続出しましたが、現在、8%、4%という自己資本比率を割り込むような金融機関はほとんど存在しません。
他方、満期保有を目的とした債券は、保有している債券の価格が下落し、含み損が発生しても、直ちに時価評価する必要のない金融機関も多くあるので、実質的に8%以上、4%以上なら健全行とはいえないのが現実です。
自己資本比率は確かに、金融機関の健全性を表す指標として、代表的で、わかりやすいのですが、自己資本比率だけで金融機関の健全性を評価するのは不十分です。
他方、不良債権処理額が大きくなったり、保有している債券が自己資本比率が低下するような事態になると、自己資本比率を計算する分母となる総資産を圧縮する必要が出てきます。
総資産を手っ取り早く圧縮するために、最も簡単な方法が、融資残高の圧縮です。
わかりやすく言えば、比較的健全な企業向けの貸出であっても、リスク資産とされるプロパー融資を回収しようとします。
かつての金融不安で現実となった「貸し渋り」と「貸し剥がし」が横行してしまいます。
中小企業の場合、資金調達のいの一番が金融機関からの借入金なので、例えば、メインバンクの経営が傾くと、合理的で必要な資金調達も難しくなる懸念が拭えませんsn。
中小企業経営者は、メインバンクに健全な金融機関を選択しなければならないのです。
2 低預貸率が金融機関を不安定にさせる
この週末、農林中金(農林中央金庫)が5,000億円程度の赤字に転落し、1兆円内外の増資に踏み切るというニュースが駆け巡りました。
農林中金は、一般には余り馴染みのない金融機関ですが、全国のJA(農業協同組合)と信用農業協同組合連合会(俗に「信連」)から資金を預かって、一次産業にゆかりのある大企業に融資をしたり、日本国債や米国国債等外債、信用度の高い社債などに投資をして、収益をとるというビジネスモデルです。
農林中金の規模感は、2023年3月期末時点で、預金量64兆円に対して、融資残高16.9兆円となっていて、預貸率はわずか26%に過ぎません。
因みに、預貸率とは、集めた預金の内、企業や個人への融資として運用している比率を言い、「預貸率」=「融資残高」÷「預金残高」×100%の計算式で求められます。
他方、地方銀行最大手の横浜銀行の場合、預金量17.8兆円に対して、融資残高14.1兆円となっていて、預貸率は実に79%にも達します。
農林中金に限らず、低預貸率の金融機関は、融資に回せない資金を金庫に眠らせておくわけにはいかないため、国債や外債等で資金運用します。
ところが、融資先の経営悪化は、ある程度金融機関として事前に察知できますし、場合によっては、出向などで人を出して経営再建に乗り出すこともできます。
預貸率の高い金融機関は、金融機関の健全性低下に直結する融資先の経営悪化は、ある程度金融機関が債権者としてコントロールすることができます。
ところが、低預貸率の金融機関が行う債券投資の場合、そうは行きません。
いくら農林中央金庫といえども、債権相場を自らに有利になるようにコントロールすることができません。
もちろん、ヘッジはある程度しているとは思われますが、一般の預金者から広く預金を集めている金融機関が債権相場等でリスクのある投資を行うことは金融機関の公共性からすると大きな疑問が残ります。
だからといって、預貸率を上げるため、「どうぞ、当行の預金はどんどん解約してください」と分母となる預金を減らそうとすると、途端に、一般の預金者は「あの金融機関はもう危ないらしい」と信用不安が広がる恐れがあるため、預金量を減らすわけにはいかないのです。
今回のように、為替相場が急速に円安に触れたり、長期金利が上昇してしまうと、融資先から得られる金利収入もあっという間に消えて無くなります。
間も無く、各金融機関が2024年3月期のディスクロージャー誌がリリースされます。
中小企業経営者は、自社のメインバンクについて、自己資本比率だけではなく、預貸率がどのくらいかを見極めておく必要があるのです。