【中小企業の銀行対策】不渡り大幅減少がゾンビ企業を産んでしまっている訳とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、不渡りリスクの極小化がゾンビ企業を産んでしまっている訳について考えてみます。
今日の論点は以下の2点。
1 不渡りは過去の遺物である
2 不渡りが出ない分だけゾンビ企業が蔓延する
どうぞ、ご一読下さい。
1 不渡りは過去の遺物である
今日は3連休明けの10月10日。
いわゆる「ゴトウビ」に当たる日で、支払う側からすれば支払日(回収側からすれば集金日)、あるいは給料日だったりして、おカネの動きが通常日よりも大きくなる日です。
話は変わりますが、その昔、おそらく15年程前のことですが、「手形・小切手がなくなって、電子債権に移行する、電子債権への対応を急がないと、経理は大変なことになる」といって、金融機関がどこも当座預金開設先に説明会やセミナーを一斉に開催したことがありました。
ところが、紙の手形・小切手はなくなることなく、現在に至っています。
金融機関では、相も変わらず、紙の手形を割り引いて(商手割引)、割引料という名の利息を得ています。
特に、関西では、まだまだ「集金文化」が残っていて、業界にもよりますが、集金日には、営業担当がお客様を訪問して、半金半手の現金分を小切手で、残りを手形で集金するという商慣習がまだまだ継続されています。
とはいいながら、中小企業・小規模事業者レベルでも、ネットバンキングがほぼ普及してきたことと、ファクタリングの増加、手形・小切手の管理の煩雑さによって、手形・小切手の流通量は驚くほど、減少しています。
今から約15年前の2007年度の全銀協の公表によれば、全国の手形交換所での手形交換高は枚数ベースで122,326千枚、金額ベースで463,234,638千円でした(全銀協公表資料より)。
ところが、2022年度全銀協公表資料では、全国の手形交換高は、枚数ベース14,208千枚、金額ベース41,232,583千円となっていて、2007年度との比較では枚数ベースで88.4%減、金額ベースでは91.1%減、1/10程度にまで減少しています。
これだけ手形交換高が減少しているため、不渡りも減少の一途を辿っていて、2007年度で不渡手形は枚数ベースで162,325枚、金額ベースで424162,329千円に対して、2022年度では枚数で1,480枚(2007年度比99.1%減)、金額で5,474,062千円(同98.7%減)となっていて、不渡り事故はもはや、絶滅危惧種のように、ごくごく稀なケースになってしまっています。
不渡りが全国で年間たったの1,480枚とは隔世の感が否めません。
尚、2022年11月2日、全国に開設されていて手形交換所は手形交換高の減少を受けて、全国統一の電子交換所に統一されています。
従来から各地の手形交換所が独自で蓄積してきた不渡り情報は全国統一電子交換所には引き継がれなかったため、過去の不渡り歴が金融機関等で把握しにくくなっています。
手形・小切手こそ、信用取引の象徴であって、手形・小切手を切ったからには、切った側は不渡りを出さない、貰った側は期日に資金化されるという暗黙ながら絶対の証でした。
例えば、1円でもアカザンが埋まらなければ容赦無く不渡りが出て、翌営業日には地元や業界内で「あの会社、先週金曜日に1回目、不渡りだしたらしいわ」と一気に信用不安が出て、事実上事業継続が難しくなりました。
なので、昔の中小企業経営者は、不渡りを回避するために、必死で金策に走りました。
不渡りというペナルティというのはそれだけ、重かったのです。
地元の手形交換所の不渡り情報を交換所所属の金融機関営業店が共有していたことで、悪意の債務者のモラルハザードを回避する効果がありましたが、もはや、手形・小切手の不渡りは、過去の遺物となってしまった感は拭えません。
2 不渡りが出ない分だけゾンビ企業が蔓延する
先ほど、申し上げましたが、昔、昭和や平成時代の中小企業経営者は、手形・小切手を切っていて、不渡りが出ないよう、全力で金策をしていました。
時間が過ぎて、令和の世では、手形・小切手を切っている中小企業の方が、圧倒的少数になってしまいました。
手形・小切手を切っている中小企業が圧倒的少数になって、今、何が起こっているでしょうか?
資金繰りが厳しくなって、資金ショートしてしまったとしても、手形・小切手を切っていないので、不渡りが出ることはありません。
その代わり、「ある時払い」が横行するようになっているのが令和の世です。
資金ショートが常態化して、「ある時払い」が横行するということは、支払遅延が蔓延することになります。
紛れもなく、ゾンビ企業そのものです。
納品する側も、支払が遅れたからといって、新規得意先を開拓することが容易ではないので、「本社経理に叱られるので、なるべく早くご入金ください」と尻尾を巻いてしまいます。
考えてみれば、昭和や平成の初めの頃は、景気も良かったけれど、商いは今よりもずっとシビアだったように感じます。
金融機関へのリスケジュールなぞ、もってのほか、不渡りが出たら一発退場、支払遅延が発生したら納品が止まる、これが昭和や平成の商いの掟でした。
言葉は悪いけれど、「ないものはない」と開き直っているとも言えなくもありません。
モラルハザードが常態化しているとも言えます。
中小企業経営者は、ゾンビ企業に陥らないためにも、現在リスケジュール中であれば、収益改善に邁進して返済原資を早期に捻出して返済を再開、リスケジュールまでの道筋をつける必要があるのです。