【中小企業の銀行対策】リスケ慣れが経営者にもたらす負のマインドとは?
今日は、中小企業の銀行対策として、リスケ慣れが経営者にもたらす負のマインドについて考えます。
今日の論点は、以下の2点です。
1 リスケの本来の目的は緊急避難的な事業継続である
2 リスケを更新し続けるとリスケ慣れしてしまう
どうぞ、ご一読下さい。
1 リスケの本来の目的は緊急避難的な事業継続である
2009年、旧民主党への政権交代が起きたことに伴って、当時の亀井静香金融担当大臣の肝入りで制定されたのが中小企業金融円滑化法です。
中小企業金融円滑化法は、債務者が取引金融機関に対してリスケジュール(返済の条件変更)を要請した際には、取引金融機関はその要請に柔軟に対応するよう金融機関に求めた法律です。
また、円滑化法以前は、リスケジュールに金融機関が応じた段階で、債務者区分が要管理先以下に分類され、少なくない貸倒引当金を積む必要があったため、リスケジュール自体、非常にハードルが高かったのです。
それに対して、円滑化法では、金融機関がリスケジュールに応じたからといって、その他要注意先で債務者区分を止めることが可能となり、多額の引当金を積む必要がなくなったことから、金融機関にとっては飛躍的にリスケジュールに応じやすくなったのです。
債務者側としても、取引金融機関がリスケジュールに応じてくれやすくなったため、リスケジュールを取引金融機関に要請しやすくなりました。
円滑化法は、このように、債務者の中小企業にも金融機関にもアメを与えることになったのです。
円滑法自体は、2013年3月末に期限切れとなりましたが、以降は、行政庁が金融機関側に円滑化法と同様の行政指導を行なっているため、円滑化法が期限切れとなった今でも、金融機関はよほどの事情がない限り、債務者中小企業のリスケジュールの要請には柔軟に対応していることに変わりはありません。
一方で、円滑化法によるリスケジュールの本来の趣旨は、緊急避難的に事業継続を優先するため、返済条件を緩和することにありました。
本来であれば、リスケジュールは緊急避難的なもので、早期にリファイナンスに持っていくことが当然視されていました。
ところが、時は流れて、2025年ももう終わろうとする中、十数年もの間、リスケジュール状態にある中小企業もなきにしもあらずです。
実際、リスケジュールをすると、資金繰りは楽チンです。
いわば、釜の中の茹でガエルと同じです。
円滑化法が期限切れとなって、12年以上も経過した今、円滑化法がもたらした弊害が目に見える形で顕在化しているのです。

2 リスケを更新し続けるとリスケ慣れしてしまう
別の会社でサラリーマンをしている息子を呼び寄せて、事業を承継させるため、「早く、返済を元に戻して、事業継承できるように頑張る」と言っていた経営者も、リスケジュールが十数年も経過してきたら、「もう息子は大手企業で働いているし、俺みたいな苦労はさせられへん。このまま俺の代で会社終わり。会社が終わるまでリスケでええやんか」と言い出す経営者もいらっしゃいます。
あるいは、「うちは後継者はいないけれど、リファイナンスして、株価を上げて、第三者にM&Aで株式を3億で売却して、ハッピーリタイアした後は、ニュージーランドでのんびり暮らす」といっていた経営者も「返済を増やすのはしんどいし、今のままでもうええか」となってしまいます。
リスケ慣れは、オーナー経営者だけではなく、その会社で働く従業員にも決してプラスの効果はもたらすことはありません。
従業員でも、仕事の中で働きがいを見つけて、スキルを上げていきたいと考える従業員がいるはずですが、経営者が会社の成長を放棄してしまっていると、従業員の士気は上がらず、生産性も上がらず、世間並みの賃上げも望み薄となってしまいます。
年に一回のリスケジュールの更新の時だけオーナー経営者は嫌な思いをするかもしれませんが、金融機関の融資係も、リファイナンスは難しいと判断すると、「社長、保証協会の保証料がこちらで、利息と条件変更手数料と合わせてこの金額を口座に用意しておいて下さい」と至極事務的な手続きに終始してしまうことになります。
このように、リスケ慣れは非常に恐ろしいことです。
このリスケ慣れを回避するために、どのような対処をすべきでしょうか。
弊所では、リスケジュールに踏み切ったお客様に対して、取引金融機関への月次の業況報告を行うようにしています。
取引金融機関は大口債権者なので、大口債権者に業況報告するためには、約束したアクションプランをまず実行に移して行かざるを得なくなります。
もちろん、アクションプランの個々の施策が想定通りの効果が出る保証は何もありませんが、アクションプランを実際に実行してみないと何も始まりません。
実行に移してみた結果、十分な効果を産まなければさっさとやめてしまえばいいだけの話で、次の具体的な施作を考えた方がずっとずっと生産的です。
アクションプランを実行に移せば移す程、良いスパイラルを産んでいきます。
成功体験が次の成功体験を産んでいくことによって、フリーキャッシュフロー(FCF)を増加させ、返済額を着実に増額できるようになるのです。
リスケジュール中の中小企業経営者は、リスケ慣れすることなく、取引金融機関への業況報告によって緊張感を高め、着実に返済額を増額させていくことが重要なのです。

