【中小企業の銀行対策】不動産価格上昇が中小企業に与える影響とは?
今日は、中小企業の銀行対策として、不動産価格上昇が中小企業に与える影響について考えてみます。
今日の論点は、以下の2点。
1 不動産価格上昇にかかる中小企業のメリットとデメリット
2 担保価値アップによる金融機関の融資スタンス
どうぞ、ご一読下さい。
1 不動産価格上昇にかかる中小企業のメリットとデメリット
本日の朝刊に、全国の地価公示価格が別誌面で大きく報道されていました。
大阪など三大都市圏は、インバウンド需要の回復の恩恵をモロに受ける形で、商業地を中心に高い地価上昇傾向が鮮明になりました。
新型コロナウイルス感染拡大の最悪期、大阪ミナミの難波ウォークがスタバのテイクアウトを除いたほぼ全店で閉鎖された光景が北出個人的には鮮明な記憶として残っていて、この世の終わりかと思うほどでしたが、インバウンドで溢れる大阪の街中は、コロナ前を上回るような活況を呈しているので、今般の公示地価上昇は実感として感じることができます。
公示地価が上がること自体は、世の中の活況を反映するバロメーターの一つなので、基本的に歓迎すべきことなのですが、中小企業の経営にとって、不動産価格の上昇はどのような影響があるのか、掘り下げみたいと考えています。
中小企業経営者にとって、不動産価格上昇に伴うデメリットとして最も実感させられるのが、保有する不動産にかかる固定資産税のアップです。
会社名義の固定資産にかかる固定資産税の納付分は、損益計算書(PL)の租税公課として計上されるので、単純にいえば、固定資産税の増額は、営業利益を押し下げます。
他方で、固定資産の価値が上がることで、中小企業経営者としては、担保価値が上がるのだから、「借りやすくなるはず」と考えるのは自然なことです。
しかしながら、地価が上がって担保価値も上がるのだから、借りやすくなると言うのは、感覚的にはわかるのですが、残念ながら、一概にそうとも言い切れません。
担保価値が上がることが、借りやすくなることに必ずしも直結しない理由について、章を改めて考えてみることにします。
2 担保価値アップによる金融機関の融資スタンス
そもそも、金融機関が事業資金の与信を出すか否かを決するには、3つの要件を最低でもクリアすることが求められます。
今更ながらですが、おさらいのようになりますが、改めて事業資金の3つの要件について確認していきます。
一つ目は、「資金使途」の妥当性です。
資金使途はシキンシト(いかにも銀行用語ですが)と読みますが、その意味は、平たく言えば、「何に使いはるんですか?」です。
売上増加に伴う増加運転資金なのか、工作機械を新たに導入するための設備資金なのか、はたまた売上が減少して支払に充当するための後ろ向き資金なのか、何のためにおカネが必要なのか、そして、その必要性が妥当なのかを金融機関が検証します。
二つ目は、「返済原資」です。
返済原資は「ヘンサイゲンシ」と読みますが、その意味は、「ちゃんと返してもらえますか?」です。
いくら資金使途が妥当であっても、FCF(フリーキャッシュフロー)がマイナスで、返済ができない場合は、金融機関は融資を実行できません。
金融機関(日本政策金融公庫等は除く)は、一般の預金者から預かっている預金を原資に融資をしているので、返済の見込がない融資を行うことは「背任」に当たります。
後ろ向き資金の場合、試算表上では返済原資が創出できていない場合がほとんどなので、経営改善のためのアクションプランの策定と実行が必要不可欠となります。
こうやってリストラすることによって、人件費がこれだけ減るので、キャッシュフローが創出できるようになります、といった具合です。
三つ目が、「保全の有無」です。
保全の有無の意味は、「会社が潰れた時に、どうやって返してくれますか?」です。
金融機関は、万が一、融資先がデフォルトになった場合、主たる債務者である会社とは別に、債権回収の手段を確立しておくのが常道です。
なので、不動産担保や連帯保証人を徴求したり、信用保証協会の保証をつけたりします。
ここまで整理すると、不動産価格が上がって、担保価値が上がるというのは、事業資金の3つの要件の一番最後の「保全の有無」に関することです。
つまり、資金使途が妥当で、返済原資も確保できるというのが前提の上で、保全の有無を金融機関は検討することになるので、資金使途と返済原資がクリアできないと、いくら担保価値が上がったからといっても、借りやすくなるというわけにはいかないのです。
バブル全盛期の時代であれば、銀行員は、「社長、この土地が遊んでますから、買うときましょ。3年後転売したら30百万円は鞘を抜けます。満額、うちが融資させてもらいます」と煽ったこともあったかもしれませんが、コンプライアンス全盛の今のご時世では、いくら不動産価格が高騰しても、金融機関は投機的な資金を出すことはありません。
残念ながら、マイナス金利が解除され、今後緩やかに「金利のある時代」が到来していくことが予想されますが、かつての不動産バブルが再燃することはほぼないと考えるべきです。
中小企業経営者は、不動産価格の市況に一喜一憂することなく、本業で稼ぐことに全身全霊を注ぎ続ける必要があるのです。