【中小企業経営者の心得】値上げができない取引を縮小・撤退しなければならない理由とは?
今日は、中小企業経営者の心得として、値上げができない取引を縮小・撤退しなければならない理由について考えます。
今日の論点は以下の2点。
1 「役所との取引が強みである」は幻想である
2 去る者を追ってはいけない
どうぞご一読下さい。
1 「役所との取引が強みである」は幻想である
かつては、例えば金融機関が融資先を評価する際、「役所との取引が強みである」と評価されることがありました。
典型的なのが、建設業、中でも土木工事業では、役所から元請工事が多く取れれば、優良先のような傾向がありました。
金融機関としては、役所からの元請工事があれば、引当(短期の繋ぎ資金)で資金需要が発生するので、短期資金ではあるけれど、融資残高の底上げに繋がりました。
ところが、役所からの元請工事の最低落札価格が低く、原価の材料費や外注費の高騰分を十分転嫁することができないため、役所からの元請工事の比率が高い建設業者は、どこも収益力に陰りが見えます。
役所からの仕事が入札案件で、容易に価格転嫁ができない例として、今年9月に破産手続き準備に入った広島のホーユーという給食業者が挙げられます。
円安の影響から業務用食材価格が高騰しているにもかかわらず、入札案件で、契約期間中の年度途中での値上げを役所が受け入れてくれなかったため、給与遅配の末、破産手続に追い込まれました。
もはや、役所からの仕事は安全圏では決してなく、むしろ役所からの仕事を受けていること自体、融資を出している金融機関から警戒される有様です。
「役所との取引が強みである」は、今となっては幻想なのです。
2 去る者を追ってはいけない
先ほどは、役所との取引について触れましたが、役所との取引だけではなく、中小企業の場合、値上げをのんでくれない得意先が存在するはずです。
営業サイドからすると、「値上げしたら他社に持っていかれる。値上げなんてとんでもない」という声が上がってきても不思議ではありません。
しかしながら、値上げをのんでもらえず、採算割れの取引を続けること自体、会社の収益を蝕み、資金繰り余力を着実に奪っていきます。
「運転資金」という名の後ろ向きの資金(借入金)が増えていく一方です。
採算割れの取引継続こそ、過剰債務の温床です。
そもそも、原価に適正な利益を乗せて価格設定できないというのは、ビジネスモデルが既に破綻していることに他なりません。
値上げをお客様に持ちかけた途端、「御社の代わりはいくらでもあるからね」と言われた時点で、同業他社との差別化できていない紛れもない証左です。
「御社の代わりはいくらでもあるからね」という言葉を吐かれたら、「どうぞ、他社へお乗り換えください。弊所は、このお見積の価格でお願いしたいと考えています」くらい、かましてやらなければなりません。
「去る者を追ってはいけない」のです。
もちろん、「去る者を追うことなく」新規顧客の開拓は容易なことではありませんが、採算割れの取引を縮小・撤退することで、適正な収益確保と資金繰りの安定化が経営者としての責務です。
新規のお客様を開拓するにせよ、既存顧客への取引深耕にせよ、中小企業経営者は、限られた経営資源を最適配分することで、会社のサスティナビリティを高める弛まぬ努力が必要なのです。