【中小企業経営者の豆知識】金融機関の資金繰りは中小企業とどう違うのか?

1 金融機関の取付騒ぎは絵空事ではない

今日は、金融機関の資金繰りは、中小企業のそれをどう違うのかについて考えてみます。
折しも、アメリカで、中堅クラスの金融機関が破綻し、または信用不安が広がりを見せています。
新聞報道では、金融機関の資金繰りがつかなくなったからという類の報道がされていますが、特に、中小企業経営者からすると、「金融機関で資金繰りが悪化するてどういうことやろ』と咄嗟にピンとこない方もいらっしゃるはずです。
通常、一般企業で資金繰りが悪化する要因は、収益の悪化が一番最初に頭に浮かびます。
赤字が続いて貸借対照表(BS)が痛んで、現預金が欠乏していくのが資金繰り悪化の最大の要因です。
また、突発的な大口不良債権の発生も資金繰り悪化の要因として挙げられます。
得意先が法的整理となって売掛金が焦げてしまう、受取手形が紙切れになるという具合で、これもわかりやすい資金繰り悪化要因です。
次に、金融機関の場合はどうでしょう。
確かに、融資先の経営状況が悪化し、貸金の回収が難しくなる(例えばリスケに応じるなど)、あるいは融資先が法的整理となって不良債権化する、そして資金繰りが悪化するというプロセスは一般企業と同様です。
他方、金融機関の資金繰り悪化の状況として、曰く「手元流動性が低下する」という表現がされます。
実はこの「手元流動性の低下」というのが金融機関の経営破綻の特性を言い当てている言葉です。
もう少しわかりやすく言いますと、金融機関の「手元流動性の低下」は、もちろん、BSの資産の劣化がその要因となりますが、問題となるのが「負債の支払い」です。
金融機関の負債の大半は、一般の預金者から預かっている「預金」です。
一般の預金者の間で、 「X銀行が危ないらしい」という噂が広まると、預金者の多くが預金払い戻しにX銀行に殺到します。
今時はネットバンキング全盛なので、もはや店頭に出向くことなく、預金が一夜にして流出していきます。
預金の取付騒ぎは、金融機関店頭での行列なく、ネット上であっという間に進行します。
かつて、昭和48年、健全経営であった愛知県の豊川信用金庫(当時)で預金の取り付け騒ぎが発生しましたが、取り付け騒ぎの原因は、電車の中で女子高生が交していた「あの銀行、潰れるらしいよ」という会話だったという話もあります。
取付騒ぎは、恐ろしい社会不安を起こしてしまいます。

2 金融機関の手元流動性の安定化が、中小企業を救う

話を進めます。
金融機関が預金を払い戻すためには現金が必要です。
市場性のある債券などは市場で売却することですぐに換金することができます。
しかし、金融機関が普段以上の現金を用意しようとしても、金融機関が保有する資産の多くは貸出金で、融資先に対して「期限の利益」を供与しているため、融資先に「すぐに返済してくれ」とは言えません。
それ故、いざ金融機関が資金繰りのため、言い換えると「手元流動性ど確保する」ために現金を用意しようとしても現金の確保は容易でありません。
金融機関の手元流動性が低下する要因は、資産の現金化が容易ではないことによるのです。
このため、政策当局は時として、「預金は全額保護される」とか、「金融機関に公的資金を投入する」とか広くアナウンスして、一般の預金者への不安を除去するよう政策を総動員します。
次に、令和の日本の金融機関の安全性はどうでしょうか。
北出は、金融機関の幹部でもないし、政策当局の人間でもありませんが、平成の世で行ったような金融不安や金融機関の破綻はそう簡単には起こらないと信じています。
一般の預金者も賢くなったし、金融機関も不良債権の開示が十分進んでいて、不良債権処理も保守的に行われている(北出が日々感じる限りですが)ように感じます。
なので、アメリカで今起こっているような金融機関の手元流動性の低下も日本では起こりにくいというのが北出の肌感覚です。
かつて起こった貸し渋り、貸し剥がしは過去のお話です。
金融機関に手元流動性に不安があれば、「リスケなんかとんでもない」ということになってしまいますが、金融機関に対して中小企業が経営改善への真摯な姿勢を見せている限り、リスケジュールへの取り組みも概ね協力的です。
逆に言えば、手元流動性に余裕のない金融機関は、不良債権に近いような融資先に対して、資産の売却、リストラの強要等によって、債権回収に邁進することになります。
わが国の金融機関が幸いにも安定した財務体質を確保し、金融システムが安定していることで、中小企業は経営改善に積極的に取り組むことが出来るのです。

【中小企業の銀行対策】万が一にも、アホな担当者に当たってしまった時の対処法とは?も併せてご一読下さい

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