【中小企業の銀行対策】「貸付金」が命取りとなる理由とは?
1 なぜ貸付金が出てしまうのか?
今日は、中小企業の貸借対照表(BS)の「資産の部」の「貸付金」勘定について考えてみることにします。
中小企業のBS上で「貸付金」が計上されている場合、ほとんどは、「社長向け」です。
そして、「貸付金」が計上されるようになった経緯、あるいは「貸付金」が増加する理由が、多くの場合で社長から明確な説明がなされないケースがほとんどです。
突発的なやむをえない事情が第三者的にも納得できるものであれば良いのですが、そうでなければ、金融機関等の債権者からすれば、「会社のおカネを使い込んだ」と見られかねません。
下手をしたら、横領です。
代表権を持った社長という立場を利用したとなると、債権者の心証は最悪です。
債権者の懸念は、例えば、運転資金として会社に融資をしても、その資金が知らぬ間に社長個人に流れてしまうのではないかというところに行き着きます。
一軒目の居酒屋の領収書は「接待交際費」で落とせても、2軒目以降のスナックの領収書は、損金処理を拒否する会計事務所があるかもしれません。
とはいえ、かつての景気の良かった時は、いざ知らず、コロナ禍でもあり、社長が盛大に飲みに行って遊びにいくご時世でもありません。
特に、経営改善の途上にある場合で、経費を聖域なく見直すべきという話になった時に、社長自らが「まず、社長であるわたしの報酬を下げましょう」となりがちです。
しかしながら、人間誰しも生活があり、家族もあるわけなので、社長と言っても一定の収入が必要です。
貯蓄があるにせよ、貯蓄を取り崩すのも限界があります。
最近の貸付金の増加の背景として、役員報酬を減額し過ぎて、生活のために会社の資金が貸付金として社長ファミリーに流れているケースが散見されます。
いかに経営改善の途上にある会社の社長だからといって、生活が立ち行かなくなるような役員報酬減額は非現実的です。
過度な役員報酬の減額は、控えなければいけないというのが北出が最近強く感じることです。
2 貸付金は会社のアキレス腱になる
債権者は、経営改善の途上にある融資先に対して、役員報酬の減額を求めがちです。
債権者の本音とすると、「債務者の代表者が率先して姿勢を見せろや」という具合です。
確かに、それはそれで債権者の立場上よく理解できますが、社長にも事情があります。
子供がまだ学生であれば学費だってかかります。
物価高の影響は着実に家計を圧迫しています。
なので、債務者の社長とすると、丁寧に家族の状態を債権者に説明し、生活にどうしてもこれだけの役員報酬が必要なのだと訴えることが肝要です。
その代わり、社長は、これ以上貸付金が増えないことを債権者にお約束をし、更には、貸付金を徐々にでも良いので、着実の毎月会社に返済していくべきです。
社長向けの貸付金が存在したままでは、M&Aによる株式譲渡も、経営者ガイドラインに基づく個人保証解除にも自主廃業型の個人破産回避も実現できません。
会社や事業を次世代に存続させるにせよ、廃業を選択するにせよ、貸付金は常に会社と社長個人の足を引っ張り続けます。
会社と代表者個人を分別するのは、会社として当たり前の姿なのです。
このように、貸付金は、会社にとってのアキレス腱です。
貸付金がBSに計上されている中小企業経営者は、貸付金の圧縮・解消を喫緊の経営課題として果敢に取り組む必要があるのです。